二つの幻・始まりと到達点

和牛の世界には、一般にはほとんど語られない“物語の深層”があります。
その頂に輝く二つの名前──見島牛(みしまうし)、そして 但馬幻(たじまぐろ)
ひとつは、山口県の離島にひっそりと息づく日本最後の純系和牛。
もうひとつは、兵庫の奥深い里に守られてきた但馬牛の中のさらに厳選された血統。
どちらも市場ではめったに見ることがなく、“本物の和牛の起源”“血統の極み”と呼ばれながら、その実像に触れられる者は限られています。
牛たちが受け継いできた百年の時間。そのすべてを、ゆっくり解説しながら和牛の原点と到達点をめぐっていきましょう。
概要

見島牛(みしまうし)
- 国の天然記念物に指定された日本最後の純系和牛
- 山口県萩市・見島で飼養。母牛は約30頭前後という超希少種
- 小柄で筋肉質、きめ細やかな肉質
- 流通はほぼゼロ。多くは保護目的で飼育
- 強健で粗飼いに適応する原初的な体質
- 見島牛の血を活かした「見蘭牛(けんらんぎゅう)」が一般市場で流通
但馬幻(たじまぐろ)

- 但馬牛の中でも特に厳選された血統のみが名乗るブランド
- 限定的な生産者・系統管理により年間出荷数はごく少量
- 霜降りバランスと肉の締まりの高さが特徴
- 伝統的な但馬育成技術(細やかな管理・低いストレス環境)
- ブランド名が示すとおり“まぼろし級”の稀少価値
歴史と由来 ― 和牛の始祖を訪ねて
海の向こうに残された“原初の和牛” ― 見島牛の歴史

萩市からさらに船で北へ。日本海の潮風が強く吹く小さな島、見島。
人よりも牛の数の方が多いと言われたこの島に、かつて日本中にいたはずの古代和牛の姿が今も残されています。
見島牛は外来種との交雑が進む前の純粋な日本在来牛の末裔とされており、粗食でも強く育ち、島の急斜面での放牧にも耐え、潮風に吹かれながら長い年月を生き抜いてきました。
1944年には、その文化的価値から国の天然記念物に指定。
しかし戦後、飼養頭数は減少し、現在は母牛が数十頭前後と極めて少なくなってしまいました。
島の生産者はこう語ります。
「見島牛は、私たちの誇りであり、じいちゃんから預かってきた“時間そのもの”なんです。」
(萩市関係者の談を基に意訳)
その血統を絶やさないため、見島牛は“増やすための牛”ではなく“守り継ぐための牛”として存在しているのです。
そして生まれた“見蘭牛”という橋渡し

見島牛を守りながら、その肉質の特長を世の中にも届けたい──
その思いから生まれたのが 見蘭牛(けんらんぎゅう)。
- 見島牛(雄) × ホルスタイン(雌)
という交雑によって生まれたブランドで、萩市の地域資源として育てられてきました。
見島牛の強健さと肉質の良さを引き継ぎつつ、現代的な肥育にも耐える“橋渡し的存在”として地域に経済的恩恵をもたらしています。
つまり──
見島牛は“原点”。
見蘭牛は“原点の息吹を現代に伝える牛”。
この二つをセットで語ることで、見島牛の希少性と文化価値はより鮮明になります。
但馬の山奥で磨かれた“幻の血”
但馬幻の歴史

和牛の名産地として名高い兵庫県但馬地方。
しかしその奥には、多くの人が知らない“血統の秘密”があります。
但馬牛は、明治以降の和牛改良の中心となり、日本全国のブランド牛の“母体”となった牛。
その中でも特に選りすぐられた血統、育成環境、体型、性質──
厳格な基準を満たした牛だけが「但馬幻」を名乗れるのです。
但馬幻と呼ばれる牛は、「名乗らせるための肥育」ではなく、「合格したからこそ名乗れる」という極めて珍しい体系。
その背景には、長年但馬牛を守り続けてきた生産者の静かな誇りがあります。
「但馬の血は、私たちが守り続けてきた宝です。牛と向き合った時間の深さが、肉の味に出るんです。」
(但馬エリア生産者の発言を基に意訳)
血統、育て方、環境。それらが一点でも逸れれば“幻”とは名乗れない。だからこそ、年間出荷はごく僅か。
市場でも“出会えたら奇跡”と称されています。
生産方法・育成工程 ― 原点と極点の違いを知る
見島牛の育成 ― 人の手が少ない、自然に寄り添う放牧
見島牛は、近代的な肥育ではなく、島の自然と共に生きる形で育てられてきました。
- 島の急斜面を利用した放牧
- 粗飼料中心で、無理な太らせ方はしない
- 基本的には“自然に近い形の飼育”
- 強い脚と丈夫な体が特徴
肥育効率よりも「血統を守る」ことが最優先。
そのため、肉質は霜降りというよりも締まった赤身の旨みが強く、脂よりも香りで食べさせるタイプ。
見蘭牛の育成 ― 見島牛の特徴を生かした現代肥育

見蘭牛は一般流通を前提とするため、以下のような現代的肥育とのハイブリッドが行われています。
- 清潔な牛舎での管理
- 配合飼料と粗飼料のバランス
- 見島牛よりやや霜降りが入りやすい
- 長門市の独自ルートで販売
見島牛の“香りの良さ”を残しつつ、誰もが食べやすい和牛として確立された品種です。
但馬幻の育成 ― 職人のような肥育技術
但馬幻の育成は、いわば“職人の技の結晶”。
- きめ細かな個体管理
- 飼料は配合を細やかに調整
- 牛ごとの性格と体調を見て飼育密度を変える
- 音や光のストレスを減らす
- 平均より長めの肥育期間
- 人と牛の距離が近く、毎日の表情を読み取る
但馬牛の中でも特に優れた血統の個体が、職人の手によって磨かれ、その中の“合格者”だけが但馬幻となります。
特徴
見島牛の特徴

- 霜降りよりも赤身主体
- 国の天然記念物
- 流通はほぼ皆無
- もし食する機会があったとすれば、それはとても奇跡的な出会いと言える
“和牛の原点の味”と評されるほど、今のブランド牛とはまったく違う方向性の旨味を持ちます。
見蘭牛の特徴
- 赤み肉でありながら、驚くほど柔らかい
- 赤みの旨さ(アミノ酸)と霜降りの甘みが両立
- 芳醇な香りと豊富な肉汁
- 香りの余韻は見島牛の血を受け継ぐ
- 一般消費者にとっては最も現実的に味わえる“原点の息吹”
但馬幻の特徴
- 一般的な和牛の融点が25度なのに対し、但馬幻の融点は驚異の12度
- 口に入れた瞬間に脂がふわりと香る
- とろけるような食感がまるで大トロのよう
- 旨味と甘味のバランスが驚くほど高い
- 年間流通量は極めて少ない
これらの要因から「和牛霜降りの最終形」と呼ばれることすらあります。
まとめ ― 二つの幻が教えてくれること

見島牛は、和牛の「始まり」。
但馬幻は、和牛の「極点」。
両者は別の道を歩んできましたが、共通しているのは“血統と文化を守る人”が今も静かにその物語をつないでいること。
あらためて振り返ると、和牛とは、ただの“食材”ではなく土地・人・歴史が織りなす文化そのものだと気づかされます。
もしどこかで、見島牛、見蘭牛、そして但馬幻に出会うことがあれば、それは偶然ではなく“縁”のようなものだと言えるでしょう。
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参考文献一覧
| 種別 | 出典・資料名 | 内容 | URL |
|---|---|---|---|
| 行政 / 地域資料 | 萩市 — 萩ブランドパンフレット「萩の見島牛・見蘭牛…」 | 見島牛・見蘭牛の地域ブランド化、保護および流通の概要 | (city.hagi.lg.jp) |
| 生産者団体ウェブサイト | みどりや — 見島牛 / 見蘭牛 紹介ページ | 見島牛の純血性、飼育状況、見蘭牛のブランド説明 | (みどりや » 世界に誇る和牛のルーツ 萩が育む《見島牛》) |
| 教育機関の報告 | 山口大学農学部 — 「附属農場で天然記念物“見島ウシ”の赤ちゃんが生まれました」 | 見島牛の保存・分散飼育、近年の子牛誕生事例 | (山口大学) |
| 新聞記事 | 朝日新聞 記事「父親はあの“幻の和牛” …」 | 見島牛 → 見蘭牛への交雑/見蘭牛の肉の特性の紹介 | (朝日新聞) |
| ブランド牛公式サイト | 但馬ビーフはまだ(TAJIMA BEEF)公式 | 但馬牛(および但馬牛系)の販売、ブランド説明 | (tajima-beef.jp) |
| 農協 / 地域団体サイト | JAたじま — 但馬牛 特産品紹介ページ | 但馬牛の歴史、血統管理、ブランドとしての背景 | (ja-tajima.or.jp) |
| 業界解説サイト | ミートマイチク — 但馬牛とは | 但馬牛の起源、和牛の中での位置づけ、血統の重要性 | (ミート・マイチク公式通販サイト) |
| 観光・地域情報サイト | 萩ジオパーク — 見島紹介ページ | 見島の地理、見島牛の生息地としての自然環境 | (hagi-geopark.jp) |
| プレスリリース / 報道 | プレスリリース — 天然記念物「見島牛」が入荷(例:和食店紹介) | 見島牛の“幻の和牛”としての扱われ方、流通の稀少性 | (アットプレス) |



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