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北海道羅臼産・[ラウスブドウエビ]――深海が育む紫の甘みと、静かに守られてきた幻の価値

希少食材

はじめに

深海が育む、甘美な紫の宝石

北海道・知床半島の東端、羅臼。
流氷が去った後も冷たく澄んだ海が広がるこの地の沖合深く、ほとんど人の目に触れることなく生きるエビがいます。その名は「ラウスブドウエビ」

水揚げされた姿は、まるで熟した葡萄の房のような深い紫色。
しかし、その姿を市場で見かけることは極めて稀です。理由は単純で、ほとんど獲れないから。

定置網や刺し網では狙えず、限られた漁法と海況、そして偶然が重なったときだけ水揚げされる存在。
地元でも「幻のエビ」と呼ばれ、東京の一流料理人でさえ、年間を通して安定的に仕入れることは困難です。

一口かじれば、ねっとりと舌に絡みつく甘みと、深海生物ならではの濃厚な旨味。
この一瞬の体験のために、ラウスブドウエビは今日も深い海の底で静かに生きています。

食材概要

ラウスブドウエビの概要

  • 名称:ブドウエビ(標準和名:ヒモゴロエビ)(新種名:ラウスブドウエビ)
  • 正式分類:十脚目・エビ類(深海性エビの一種)
  • 主産地:北海道 羅臼沖
  • 生息域:水深300〜600m前後
  • 特徴:紫がかった体色、非常に強い甘み
  • 流通量:極少(不定期・数量限定)
  • 主な用途:刺身、寿司、塩焼き

歴史・由来

名もなき深海エビから【幻のエビ】と言われるまで

ラウスブドウエビは、古くから羅臼の海に生息していたと考えられていますが、
食材として注目されるようになったのは比較的近年のことです。

かつては底引き網に混じってわずかに揚がる“名もなき深海エビ”でした。
色が濃く、数も揃わず、流通に向かないことから、地元では漁師が自宅用に持ち帰るか、知人に分ける程度の存在だったと言われています。

転機となったのは、1990年代後半。羅臼の魚介類が「知床ブランド」として再評価され始め、地元市場や料理人の間で「この紫色のエビは、味が異常に良い」と噂が広がりました。

その見た目から「ブドウの房みたいだ」という声が上がり、やがてブドウエビという呼び名が定着します。

長らく羅臼で獲れるものもヒゴロモエビと思われていましたが、近年の研究により、他の産地のものとは遺伝的に異なる新種であることが判明し、「ラウスブドウエビ」という独立した名前が付けられました。

しかし、需要が高まっても供給は増えませんでした。乱獲できる種類ではなく、漁法も限定的。
結果として、“知る人ぞ知る幻のエビ”という立ち位置が現在まで続いています。

漁獲方法

養殖ではなく「天然・偶発的漁獲」

ラウスブドウエビは養殖できる食材ではありません。深海という特殊な環境で育つため、100%天然です。漁獲は、その希少性と生息環境から特殊な方法で行われます。 

・漁法:主にエビ籠漁で行われます。漁師は深夜に出漁し、前日に水深400mから600mほどの深海に仕掛けた約250もの籠を引き上げます。

混獲:他の産地ではズワイガニ漁などの底引き網漁の際に稀に混獲されることが多いのですが、羅臼ではエビ籠漁が主流です。

漁獲量: 羅臼町内でラウスブドウエビを専門に狙える船はごくわずかで、1日の水揚げ量もわずか数キロから十数キロ程度と非常に限られています。 

特徴

味わい

圧倒的な「甘み」の質と強さ

ラウスブドウエビの最大の魅力は、一般的なエビを遥かに凌駕する濃厚で質の高い甘みにあります。

上品で深い甘さ: 甘さが口に入れた瞬間に広がるのではなく、噛みしめるほどにじんわりと、そして力強く増していくのが特徴です。その甘みは非常に上品で、しつこさがありません。

アミノ酸の含有量::この強い甘みは、グリシンやアルギニンといった遊離アミノ酸の含有量が非常に多いためと考えられています。

独自の「食感」

食感もまた独特で、美味しさを引き立てます。

水分が少なく緻密な身: 深海に生息するエビは、浅瀬のエビに比べて身の水分が少なく、繊維が緻密に詰まっています。これにより、独特の「もっちり」とした弾力と、「ぷりぷり」とした歯ごたえの両立を実現しています。

ねっとり感::鮮度が非常に良いため、刺身で食べると身が締まりつつも、舌に絡みつくような「ねっとり」とした食感も感じられます。

磯の香りと濃厚な旨み

甘みだけでなく、エビ本来の旨みと風味が凝縮されています。

磯の香り:口に運ぶと、羅臼の冷たい深海を思わせるような、清涼で上品な磯の香りが広がります。

後味の余韻::食べた後の余韻が長く、甘みと旨みが口の中に長く留まります。

ミソまで絶品

頭部にあるミソも、他のエビとは一線を画す濃厚さです。

クリーミーでコク深い:非常に濃厚でクリーミーな味わいで、カニ味噌に匹敵するほどのコクがあります。通の方々は、このミソも刺身と一緒に楽しんだり、日本酒の肴にしたりします。

他のエビとの比較

よく比較されるボタンエビや甘エビと比較すると、ラウスブドウエビは以下のように評価されます。

甘エビ(ホッコクアカエビ):甘エビも甘みが強いですが、ラウスブドウエビはそれを上回る圧倒的な甘みと、より強い弾力のある食感を持っています。

ボタンエビ(トヤマエビ):ボタンエビはサイズが大きく食べ応えがありますが、ラウスブドウエビの方が身の締まりが良く、甘みが強いとされることが多いです。

ラウスブドウエビは、その「甘み」「食感」「旨み」の全てが最高レベルで調和した、まさに「幻」と称されるにふさわしい味わいの逸品です。

見た目

サイズ:一般的な甘エビよりも大きく、体長は15cm〜20cm程度になる個体が多いです。食べ応えのあるサイズ感が特徴です。

体型:細長い流線型のエビらしい体型をしていますが、身が詰まっているため、野性味のあるしっかりとした体つきに見えます。

・最大の特徴:ブドウ色―「ブドウエビ」という名前の決め手となった体色は、非常に特徴的です。 

細部の特徴

殻の質感

・殻は比較的硬く、しっかりとしています。深海という水圧の高い環境で育つためか、身を守るための頑丈さを感じさせます。しかし、調理の際には剥きにくいということはなく、身離れは良いです。

長い触角(ヒゲ)

・頭部からは非常に長い触角(ヒゲ)が伸びています。これは深海のエビに共通する特徴で、暗闇の中で周囲の情報を得るための重要な器官です。この長いヒゲが、見た目にダイナミックな印象を与えます。

頭部の大きさ

・頭部は身(尾の部分)と比較してやや大きめで、中には濃厚なミソが詰まっています。この頭部の存在感も、魅力的な外見の一部です。

希少性

産卵数の少なさ

・一般的なエビは一度に数千〜数万個の卵を産むのに対し、ラウスブドウエビは一度に抱える卵の数がわずか200粒程度と非常に少ないです。

・この繁殖力の低さが、個体数が増えにくい最大の原因です。

成長速度

・成長速度が遅いことも希少性に拍車をかけています。市場に出回るサイズになるまでに、長い年月がかかります。

漁獲に関する要因(漁法の特殊性と漁獲量の少なさ)

漁獲方法の限定:主に羅臼で行われるエビ籠漁という特殊な漁法で獲られます。一般的な底引き網漁などでは漁獲が難しいため、漁獲方法が限られます。

狙って獲れない「混獲」:羅臼以外の産地では、他の魚やエズワイガニ漁などの底引き網漁の際に「混獲」(たまたま網に入ること)されることがほとんどです。そのため、漁獲量が非常に不安定で、安定供給ができません。

羅臼での漁獲量自体が少ない

羅臼では専門の漁師がいますが、前述の生態的要因により、1隻あたりの1日の水揚げ量はわずか数キロ〜十数キロと非常に少なく、市場に出回る総量が限られています。

さらに羅臼漁協では資源保護のため、毎年7月から9月頃までの約2〜3ヶ月間しか漁を許可していません。この限られた期間にしか新鮮なものが流通しないことも、希少価値を高める要因の1つとなっています。

流通に関する要因(鮮度維持の難しさ)

ラウスブドウエビは非常に鮮度落ちが早いデリケートなエビです。そのため、産地以外での流通が難しく、多くは冷凍品として流通します。また、漁場から港までが近いため高鮮度のまま水揚げできますが、その利点を活かした「生」での流通は、地理的に近い北海道内などに限られています。

これらの要因が複合的に絡み合うことで、市場に滅多に出回らない「幻のエビ」となり、高級食材として扱われているのです。

生産者の想い

禁漁と資源の保全

羅臼の漁師の方々は、この希少なエビ漁に誇りと難しさを感じています。

作業の手間:深夜からの出漁、数百もの籠の引き上げ、そして生きたままのエビを手際よく選別し出荷する作業は5~6時間にも及ぶ重労働です。

資源管理と未来:羅臼漁協では、高騰する浜値に対応するため発泡スチロールの内容量を小型化したり、資源保護のために漁期を厳しく制限(例年7月上旬から9月下旬までの約2か月間)したりしています。

漁師の思い:漁師の方々は、この「幻のエビ」を安定して将来にわたって提供できるよう、資源管理に努めています。資源保護のための禁漁期間を設けたり(2025年には3年ぶりに漁を再開したという例も)、漁獲制限の中でいかに漁業を成り立たせるか模索しています。 

ラウスブドウエビは、漁師の努力と羅臼の豊かな深海が育む、まさに「幻」と呼ぶにふさわしい逸品だと言えるでしょう。

まとめ

自然と人が作るストーリー

北海道・ラウスブドウエビは、「希少だから高級」なのではありません。

  • 深海という過酷な環境
  • 限られた漁獲機会
  • 生産者の丁寧な扱い
  • 圧倒的な味の完成度

これらすべてが重なり合った結果、自然と“幻の食材”になった存在です。

もし出会えたなら、それは偶然ではなく、知床の海が許したタイミングなのかもしれません。

購入案内(非アフィリエイト)
● 製品名:ラウスブドウエビ
● 価格:掲載なし(リンク先でご確認ください)
● 購入元:[北海道ぎょれん

参考文献

種別資料名・サイト名URL
行政資料羅臼町公式サイト(水産業紹介)https://www.rausu-town.jp
産直・市場羅臼漁業協同組合https://www.jf-rausu.or.jp
観光・ブランド知床羅臼町観光協会https://rausu-shiretoko.com
市場情報北海道中央卸売市場 水産情報https://www.sapporo-market.gr.jp
学術・一般北海道立総合研究機構 水産研究https://www.hro.or.jp
生産者関連羅臼町水産関係者インタビュー記事https://www.hokkaido-np.co.jp

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調理人歴25年、和食を中心に様々な食材と出会いがありました。

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