● はじめに
2種類の「幻の豚」
豚肉と聞けば、一般的には三元豚(たとえばランドレース × 大ヨークシャー × デュロックなど)が日本では広く流通しています。しかし、それとは一線を画す「幻の豚」と呼ばれる銘柄があります。その代表格が LYB豚 (るいびぶた)と 千代幻豚 (ちよげんとん)です。どちらも希少性、高い肉質、そして生産にかける強い思いを持つ生産者によって育てられた特別な豚肉です。

- LYB豚:静岡・富士山麓で育てられる三元交配豚。あえて生産効率の悪い原種を用い、味と食感を追求した「銘柄豚」。
- 千代幻豚:長野県飯田市の岡本養豚 が生産する、希少な中ヨークシャー種を母豚とした交配豚。日本で唯一の 千代幻豚 生産農場からのみ供給される、まさに幻の豚。
本記事では、それぞれの歴史、特徴、生産の背景、生産者の思い、その魅力を詳しく探っていきます。
● LYB豚 ― 歴史と伝統、特徴

歴史・背景
LYB豚は、静岡県の富士農場サービス(代表:桑原康氏)によって作出されました。
その血統は豚の原種、ランドレース (L)、ヨークシャー (Y)、バークシャー (B) を掛け合わせた三元交配。具体的には (L × Y) × B の構成です。
当時、効率よりも「味の良さ」「本格的な肉質」を優先する挑戦として生まれた銘柄であり、「豚博士」とも呼ばれる桑原氏が、原種・優良血統の厳選、何世代にもわたる選抜を繰り返して誕生させた豚です。
多くの日本国内の豚肉が、成長の早い大型種を基にした三元豚である中、あえて時間と手間のかかる交配・育成を選んだことで、希少かつ個性的な豚肉となりました。
特徴・肉質
最大の特徴は「脂身の融点の低さ」。一般的な三元豚の脂の融点は約38℃前後とされるのに対し、LYB豚は約32〜32.5℃と低く、その結果、口に含んだときに脂がとろけ、しっとりとした甘みと旨みが広がります。脂が軽くてしつこくないため、脂身が苦手な人にも好まれるとのこと。
赤身の部分は、繊維のきめが細かく、やわらかく、肉自体に甘みと旨味があるため、シンプルな調理(ポークソテー、しゃぶしゃぶなど)でもその味を十二分に感じられます。

また、脂が溶け出して野菜などに染み込むことで、野菜の味も引き立て、普段は豚肉を食べない人、あるいは脂身が苦手な子どもでも食べやすいという評価もあります。
加えて、富士山麓の空気・水・気候など自然環境と、厳選された血統、そして生産者の品質へのこだわりが相まって、“最高級の銘柄豚” としての地位を築いています。
生産者の声・思い
富士農場サービスの桑原氏は「本物の美味しさを味わってほしい」という思いで、あえて効率の悪い原種や交配を続けたと明かしています。効率重視の流通・畜産の中で、「味」「質」「血統」の価値を追求したい、との強い信念があったようです。
また、血統・系統・個体ごとの管理を徹底し、トレーサビリティ(個体識別・追跡管理)も確立しており、「誰が、どこで育てたか」が明確な豚肉として提供されています。これにより、安全性にも一定の信頼が置かれています。
● 千代幻豚 ― 歴史と伝統、特徴

歴史・背景
千代幻豚は、長野県飯田市にある「岡本養豚」によって生産されています。現在、千代幻豚の商標を名乗れるのはこの農場のみです。
その起源は約 25 年にわたる試行錯誤と品種改良にあります。創業者 (故)岡本陸身 氏が、中ヨークシャー種(当時ほとんど日本国内で残っていなかった希少豚)に着目し、「昔ながらの豚肉のおいしさ」を復活させようと取り組んだのが始まりでした。
元々、日本では昭和の時代まで中ヨークシャー種を含めた豚がよく飼育されていた時期がありましたが、成育の遅さや生産効率の点で、大型種が主流となっていきました。現在、中ヨークシャー種は非常に希少で、極端に数が減っていたのです。
そんな中、岡本氏は 3頭の中ヨークシャー種の豚に投資し、交配・飼育、そして血統管理を重ね、最終的に「千代幻豚」として商標登録。以来、唯一無二の銘柄豚として育てられています。
ブランド豚として評価され、2006年には信州ブランドアワード2006 に入選。さらに、代表である岡本佳世 氏も農業者として表彰を受けるなど、地道な活動が認められてきました。
特徴・肉質
千代幻豚の母豚は中ヨークシャー種 (Y)、交配相手として大ヨークシャー (W) を母豚系統に使い (YW)、さらにデュロック種 (D) を使っています。つまり、三元交配 (Y × W) × D によって生まれる豚 (YW D) です。
成長には約 210 日という、通常の三元豚よりも長い期間をかけることで、肉質の安定と熟成を図っています。このため、肉のきめは細かく、旨味と甘み、歯ごたえ、香ばしさなど、豚肉本来の良さを最大限に引き出すことができます。
また、飼料にもこだわり、納豆菌を添加するなどして腸内環境や健康を考慮。抗生物質、発育促進剤、ホルモン剤などは一切使用せず、安全性にも配慮された飼育がなされています。これにより、臭みの少ない、上質で上品な豚肉が生まれます。
千代幻豚は、しゃぶしゃぶ・鍋物ではあくが出にくく、最後のスープまで美味しく楽しめるとされ、煮ても焼いても硬くなりにくい。また、焼き縮みにくく、歯ごたえと香ばしさが良いため、とんかつやソテー、ハンバーグにも適しているとの紹介があります。

生産者の声・思い
岡本養豚は、「中ヨークシャー種」という昔ながらの豚の原種を守り、次世代に伝えることを大きな使命と捉えてきました。千代幻豚の他に、中ヨークシャー × デュロック から生まれる「千代の千里豚」という銘柄も手がけ、品種保存と味の継承に取り組んでいます。
また、千代幻豚は市場流通用ではなく、基本的に生産者があらかじめ販売先を決めてから出荷する「契約販売」。これにより品質管理を徹底し、トレーサビリティと購買者との信頼関係を大切にしています。つまり、「誰が」「どこで」「どのように育てたか」が明確な豚肉なのです。
このような姿勢は、ただの “ブランド豚” ではなく、「豚肉を通じた食文化の継承」と言えるでしょう。
● 品種としての背景
なぜ「幻の豚」と呼ばれるのか?
ここで、両銘柄豚に共通する「なぜ幻なのか?」の背景を整理しておきます。
もともと日本で多く飼育されていた豚の品種には、中ヨークシャー種 (Y) やバークシャー種 (B) などが含まれていました。これらは肉質や脂の風味に優れていたと言われています。
しかし、昭和〜高度経済成長期に入り、豚肉需要が急増するにつれ、「成長が早く、脂肪が適度、大量出荷に向く」大型種(ランドレース種 (L)、大ヨークシャー種 (W)、デュロック種 (D) など)が輸入され、生産性や効率が重視されるようになりました。結果として、中型/原種豚は次第に飼育頭数を減らしていったのです。
中ヨークシャー種などは、一時は「日本国内で7頭しか残っていなかった」という報告もあり、ほぼ絶滅寸前とも言える状況に。そんな希少な血統をもとに、「味」「伝統」「肉質」を守ろうという生産者の想いから生まれたのが、「幻の豚」と呼ばれる銘柄豚たちなのです。
つまり、「幻」という言葉には、単なるマーケティングではなく、「失われかけた豚肉の食文化の再生」「貴重な血統の保存」「味のこだわりと純粋性の維持」という意味合いが強く込められています。
● まとめ

「幻の豚」に込められた価値
LYB豚 と 千代幻豚 は、どちらも「効率や大量生産ではなく、味と質、そして血統を守る」という強い想いから生まれた豚肉です。
LYB豚 は、静岡・富士山麓の自然と、豚肉の本質を追求した交配によって生まれた“新たな銘柄豚”。脂のとろけるような甘み、赤身のきめ細かさ、軽やかな脂身によって、豚肉の価値を再定義しています。
千代幻豚 は、かつて主流だったが失われかけた中ヨークシャー種の血統を守り、現代に蘇らせた“伝統の復活”。長い育成期間、安全性・品質への徹底したこだわり、そして希少性 — すべてが揃った「本物の豚肉」です。
どちらも、ただの「ブランド豚」ではなく、「豚肉を通じた文化・伝統・味覚の継承」であり、「生産者の想い」が確かに息づく食材です。もし機会があれば、ぜひ一度、その違いを食べ比べてみてください。きっと、「豚肉」の概念が変わるはずです。
購入案内(公式/非アフィリエイト)
● 製品名:LYB豚
● 価格:掲載なし(リンク先でご確認ください)
● 購入元:公式[ルイビ豚 オンラインショップ]
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● 製品名:千代幻豚
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● 購入元:公式[岡本養豚]
参考文献・情報源
- 富士農場サービス「LYB豚 / ブランド豚」紹介ページ 【まふるみ】
- 千代幻豚 公式サイト (岡本養豚)「千代幻豚とは」および歴史紹介ページ【 岡本養豚】
- JAPAN養豚協会「豚の品種」紹介ページ(中ヨークシャー種の説明) 【日本養豚協会】
- 地域情報サイト「おいでよわが街 情報館」『一度は食べたい「幻の豚肉 千代幻豚」その希少性と購入方法を説明します。』 【mycity-info.com】
- 千代幻豚 販売情報 (とんかつ用ロース) ページ 【onishi-g.co.jp】
- ランドレース種 (L)大ヨークシャー種 (W)デュロック種 (D) の記述【日本SPF豚協会】



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