はじめに

富士の麓で磨かれる、“交配豚”という名の完成形
富士山の南麓、静岡県富士宮市。
この土地で育てられている豚肉の中に、意図的に“広がらないこと”を選び続けてきた存在があります。それが、「LYB豚(るいびぶた)」です。
LYB豚は、流通量が限られた希少な豚肉です。しかしその希少性は、単なる頭数の少なさや限定出荷によるものではありません。
品質を保つために、あえて規模を拡大しない。その判断を、長年にわたり貫いてきた結果としての希少性です。
交配豚という合理的な選択を起点にしながらも、富士宮という環境に合わせた飼育設計、過度な肥育を排し、肉の完成度を優先する哲学、そして“毎回同じ水準で仕上げる”という高いハードル。
これらすべてを同時に満たせる生産体制は、決して多くありません。
だからこそLYB豚は、市場で目立つことも、派手な物語を語ることもなく、限られた料理人と現場の目利きによって選ばれ続けてきました。
ブランドとは、数ではなく、持続できる覚悟。
LYB豚は、その覚悟ゆえに希少であり、富士宮という土地にしか成立しえない、静かなプレミアムポークです。
食材概要
- 名称: LYB豚(ルイビぶた / エル・ワイ・ビーぶた)
- 開発者: 富士農場サービス
- 産地: 静岡県富士宮市(富士山麓)
- 血統: L(ランドレース)×Y(ヨークシャー)×B(バークシャー)の独自交配
- 肉質: 脂の融点が約32度と極めて低く、口溶けの良さと赤身の濃厚な旨味が共存。
- 市場: 高級レストランや精肉専門店を中心とした限定流通。
歴史・由来

開発の背景・効率から「味」への転換
1960年代以降、日本の養豚は大規模化・効率化の道を歩んできました。
発育が早く、肉量の多い品種が主流となり、生産性は飛躍的に向上しました。
一方で、その流れの中で、かつて日本人が親しんできた豚肉の風味や、噛みしめたときに広がる深い旨味が後退していったことも否定できません。
桑原康氏は、この変化に強い違和感を抱いていました。
「昔の豚が持っていた、本当の美味しさが失われているのではないか」――その問いが、LYB豚開発の出発点でした。
日本人の味覚に本当に合う豚肉とは何か。
効率ではなく、味を基準に育種を行うことは可能なのか。
その答えを求め、桑原氏は世界各地から原種豚を集め、独自の育種改良に着手します。
それは、当時の養豚業界において、決して主流とは言えない、挑戦的な選択でした。
「LYB」という名称の由来・味のために選ばれた、三つの原種
LYBという名称は、交配に用いられた三つの原種豚の頭文字に由来します。
一般的な三元豚(LWDなど)が生産効率を重視した組み合わせであるのに対し、LYB豚は「味の完成度」を最優先に設計された交配です。
- L:ランドレース(Landrace)
体格が大きく、肉質がきめ細かい品種。赤身の質と保水性に優れ、LYB豚の安定した基礎品質を支えています。 - Y:中ヨークシャー(Yorkshire)
かつて日本で広く飼育されていた品種。
成長が遅く効率面で劣ることから姿を消しましたが、肉繊維が非常に細かく、豊かな風味と旨味を持つ、極めて優れた原種です。 - B:バークシャー(Berkshire)
いわゆる黒豚として知られ、脂の甘みと舌触りの良さをもたらします。
桑原氏は、それぞれの長所を単純に足し合わせるのではなく、富士山麓という環境下で最大限に引き出す組み合わせを追求しました。
その結果として生まれたのが、LYB豚です。
歴史的意義と評価・「日本的育種」が到達した一つの完成形
1999年、長年の研究と試行錯誤の末、富士山麓の冷涼な気候を活かした環境下で、LYB豚は一つの完成形に到達しました。
富士農場サービスでは、世界でも稀とされる「主要原種をすべて自社で保有・管理する育種体制」を構築。
外部から血統を導入しない閉鎖群として管理することで、世代を重ねるごとに味を磨き上げていく、日本独自の育種哲学を確立しています。
その品質は高く評価され、厳格な審査を経て、国の認定を受けた銘柄豚の一つとなりました。
現在では、脂の融点が低く(約32度)、赤身の旨味が濃い豚肉として、一流の料理人から指名される希少な存在となっています。
今日に至るまで、LYB豚は富士宮市を中心に桑原康氏の哲学と、それを受け継ぐ生産者たちの手によって品質を最優先とした限定的な生産が続けられています。
飼育方法/生産工程
LYB豚(ルイビ豚)は、富士山麓という恵まれた自然環境の中で、最新の科学的知見と、長年の現場経験に裏打ちされた職人的なこだわりを融合させた、独自の生産工程によって育てられています。
その工程は効率を最優先するものではなく、あくまで「肉の完成度」を頂点に据えた設計です。以下に、その主な特徴を整理します。
飼育環境・富士山麓の冷涼な気候を、飼育技術へと昇華する
LYB豚が育てられているのは、静岡県富士宮市、富士山西南麓の標高が高く冷涼な地域です。
この土地は、昼夜の寒暖差があり、豚の健康管理に適した環境条件を備えています。
豚は暑さや環境変化に弱く、ストレスが肉質に直結する家畜です。
そのため飼育舎では、年間を通じて温度・湿度を細やかに管理し、概ね28度前後を目安とした安定した飼育環境が保たれています。
また、富士山の清らかな伏流水は、飲水として豚の体調を支える重要な要素となっており、健やかな体づくりの基盤を形成しています。
独自の飼料設計と乳酸菌の活用 ・腸内環境から、味を整えるという発想

LYB豚の肉質を語るうえで欠かせないのが、独自に設計された飼料と乳酸菌の活用です。
飼料には、独自の乳酸菌を配合。腸内環境を整えることで、豚の健康状態を安定させ、肉の臭みを抑えながら、旨味を引き出すことを目的としています。
また、成長を急がせる給餌は行わず、肉質と脂質の成熟を優先した専用配合飼料を使用。
これにより、脂の融点が低く、口溶けの良いLYB豚特有の質感が形成されていきます。
血統管理と一貫生産体制・味を再現し続けるための「閉じた仕組み」
LYB豚の生産は、開発者・桑原康氏が率いる「富士農場サービス」グループにより、原種豚の維持・交配から、子豚の誕生、肥育、出荷までを一貫して自社グループ内で行う体制が築かれています。
独自の繁殖管理システムを用い、L(ランドレース)、Y(中ヨークシャー)、B(バークシャー)
それぞれの特性が最もバランス良く現れるよう、綿密な血統管理と交配が行われています。
また、一般的な肉豚が約180日で出荷されるのに対し、LYB豚は肉の熟成度と旨味を優先し、じっくりと時間をかけて育てられます。
この「待つ」という選択こそが、味の深みを支える重要な工程の一つです。
衛生管理とアニマルウェルフェア・豚の快適さが、肉質を決定づける
生産現場では、防疫対策にも細心の注意が払われています。
外部からの病原菌侵入を防ぐため、消毒や動線管理など、徹底した衛生体制が敷かれています。
同時に、豚の生理や行動特性に配慮した※アニマルウェルフェア(家畜福祉)の考え方も重視されています。
ストレスを最小限に抑えた飼育環境は、結果として肉質の柔らかさや味の安定性につながっています。
※アニマルウェルフェア:家畜(動物)が心身ともに健康で快適に生きられるよう、ストレスを減らし、本来の行動が発揮できる環境と飼育管理を目指す考え方。
LYB豚の生産工程は、自然条件・遺伝学・栄養設計、そして人の手による管理が、精密に組み合わされたものです。
それは単なる「畜産物の生産」ではなく、再現性のある味を目指して設計された、極めて完成度の高いものづくり。
LYB豚が評価される理由は、この一つひとつの工程が、妥協なく積み重ねられている点にあります。
生産者の想い・探究心と責任感が生んだ、LYB豚という思想
LYB豚(ルイビ豚)の根底にあるのは、開発者である桑原康氏(富士農場サービス代表)の飽くなき探究心と、日本の食文化に対する強い責任感です。
それは単なる「美味しい豚肉を作りたい」という願望ではなく、失われつつある価値を、自らの手で取り戻すという覚悟に近いものでした。
その哲学は、大きく三つの柱に集約されます。
「失われた美味しさ」を取り戻すという使命
桑原氏が育種改良に取り組むきっかけとなったのは、現代養豚が生産効率を最優先するあまり、豚肉本来の旨味が置き去りにされている現状への強い危機感でした。
「かつて日本人が当たり前に食べていた、本当に美味しい豚肉をもう一度」
――その思いを原点に、桑原氏は世界各地を巡り、絶滅の危機に瀕していた原種や希少品種を収集します。
効率や採算を犠牲にしてでも、味の完成度を追い求める道を選んだことこそ、LYB豚の価値を規定する最初の決断でした。
豚へのリスペクトと、科学に裏打ちされた育種

獣医師としての専門知識を持つ桑原氏は、経験や勘に頼るのではなく、遺伝学とデータに基づいた「科学的な育種」を徹底しています。
「良い肉は、良い血統からしか生まれない」
という信念のもと、世界中の原種豚を自ら管理・維持し続ける体制を構築。
それは、味の源泉となる遺伝子を未来へと繋ぐ、私的なジーンバンク(遺伝資源の保存)とも言える取り組みです。
同時に、豚一頭一頭を尊重し、ストレスを与えない環境を整えることを、生産者としての最低限の責任と捉えています。
命への敬意が、結果として肉質に表れる――その考え方が、すべての飼育工程に貫かれています。
日本の風土と感性に根ざした豚肉づくり
桑原氏が目指してきたのは、欧米の養豚技術を模倣することではありません。
日本の気候、そして日本人が大切にしてきた、脂の甘みや口どけを尊ぶ繊細な味覚に寄り添った、日本独自の豚肉づくりです。
大量生産によって知名度を広げるのではなく、本当に価値を理解してくれる料理人や消費者にだけ届けたい。その職人気質な姿勢は、LYB豚を「数のブランド」ではなく、信頼によって選ばれる銘柄として育ててきました。
また、富士山の麓という土地への深い愛着も、生産を支える原動力の一つです。
「富士宮から、世界に誇れる豚肉を」その思いが、今日も現場を動かしています。
まとめ

富士の麓、富士宮の静かな風土の中で、ひそやかに育まれてきた「LYB豚(ルイビ豚)」。
それは決して、流行や話題性を狙って生まれたブランドポークではありません。
効率や収量が正義とされる時代にあってなお、「豚肉が本来持つべき美味しさとは何か」を愚直に問い続けた、生産者・桑原康氏の思想と探究の結晶です。
口に含んだ瞬間に感じる、すっと溶ける脂の軽やかさ。
噛みしめるほどに広がる、赤身の奥深い旨味。
それらは偶然の産物ではなく、育種学の知見に基づき導き出された血統の「黄金比」と、豚という生命に真摯に向き合い続けた桑原氏の執念がもたらした必然の味わいです。
一頭一頭に注がれる手間と時間、その積み重ねこそが、LYB豚の個性を静かに、しかし確かな輪郭で形づくっています。
大量生産・大量消費が当たり前となった現代において、LYB豚は声高に主張することなく、私たちに問いを投げかけます。
「本当の豊かさとは何か」「食材の価値は、どこで測られるべきなのか」と。
その希少性ゆえ、LYB豚は誰もが日常的に出会える存在ではありません。だからこそ、もし目の前にその一皿が現れたなら――そこに込められた開発者の思想と、日本の養豚の未来を見据えた一人の匠の夢に、ぜひ思いを馳せてみてください。
その一口は、単なる「美味しさ」を超えた、完成形としての豚肉が描く静かな感動なのです。
※本食材は、収穫時期や生育状況に応じて出荷されるため、販売時期・数量には限りがあります。最新の販売状況や次回出荷については、公式サイトをご確認ください。
購入案内(公式/非アフィリエイト)
● 製品名:LYB豚
● 価格:掲載なし(リンク先でご確認ください)
● 購入元(公式):[LYB豚オンラインショップFUJIBIOKU]
参考文献一覧
| 種別 | 出典名 | URL |
|---|---|---|
| 行政資料 | 静岡県畜産振興資料 | https://www.pref.shizuoka.jp |
| 行政資料 | 富士宮市 農業関連情報 | https://www.city.fujinomiya.lg.jp |
| 学術・一般 | 日本養豚学会 公開資料 | https://www.jasp.or.jp |
| 市場情報 | JA全農 畜産情報 | https://www.zennoh.or.jp |
| 産直・流通 | 静岡県内産直サイト(豚肉) | https://www.shizuoka-sanchoku.jp |
| 生産者情報 | 富士宮市 養豚関連事業者HP | ※個別事業者公開情報より |



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