はじめに:冬の食卓を変える「せり鍋」の魅力

冬が深まると、鍋料理が恋しくなります。
とはいえ、ただの野菜と肉を煮込むだけでは、どこか物足りなさを感じてしまうこともありますよね。
そんなときこそ、冬の鍋を劇的に変えてくれるのが「せり」。旬の厳寒期に根っこ付きで出荷されるものが「根せり」です。
特に「せり鍋」として名高い宮城県の郷土料理は、根、茎、葉のすべてを楽しむ料理として全国で人気が高まり、せりのブランド価値を一段と押し上げました。
しかし、せり鍋に使うせりといっても、一種類ではありません。
近年特に注目度が上がっているのが、宮城の「仙台せり」、そして秋田の「三関せり」という2つのブランド。
双方が全国の食通から熱視線を浴びる理由は、ただ香りが良いとか、食感がいいというだけではありません。
そこには、生産量の少なさや地域性、育てられ方、文化背景…さまざまな“物語”が存在します。
この記事では、仙台せり・三関せりの魅力を余すことなく紹介しながら、
「どちらを買うべきか?」
「どんな風味の違いがあるのか?」
といった疑問を、比較しつつ解説していきます。
せり鍋をもっとおいしく、もっと深く楽しめる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
第一章:せりという野菜が、なぜここまで愛されるのか

せりは、古くは万葉集にも登場するほど日本人にとって馴染みの深い山菜です。
春の七草のひとつとしても知られ、香りを愛でる文化が根づいています。
しかし、冬の「せり鍋」で全国的に注目されるようになったのは近年のこと。
そのきっかけとなったのが、仙台周辺で広く食べられてきた“根っこまで食べるという文化”です。
通常、野菜の根は取り除くことが多いですが、せり鍋では白く美しい根を味わうことこそが醍醐味。
根に吸い込まれるだしの旨味、シャキッとした歯ざわり、葉とは違う甘み…。
これを体験すると“一度で虜になる”といわれるのも納得です。
そして、この文化を背景にブランド化したのが仙台せり。
一方、せり本来の香りを極限まで引き出したのが三関せり。(みつせきせり)
この2つは同じせりでありながら、生まれた土地も味の方向性もまるで違う存在なのです。
第二章:仙台せり——根まで美しい、王道のブランド

● 仙台せりが育つ土地と文化
仙台せりの産地は、宮城県名取市や仙台市を中心としたエリア。
この地域の地下には清冽な湧き水が豊富に流れ、せり栽培に最適な環境として知られています。
湧き水をたっぷり使った水耕に近い栽培方法によって、
- 真っ白で美しい根
- えぐみの少ない茎
- 香りが爽やかで上品
という特徴が生み出されます。
特に根の白さは仙台せりの象徴で、これを維持するために農家は非常に細かい管理を行い、手作業も惜しみません。
令和6年3月27日にGI(産品国の地理的表示)に登録されました。
● 歴史(約400年の伝統)

仙台せりは、江戸時代初期(17世紀頃)には既に名取市周辺で栽培が行われていたとされ、400年以上の歴史を持つ伝統野菜です。
名取市の湿地帯「名取の田んぼ」は、水が豊富で水温が安定しているため、せりの生育に理想的な環境でした。
せりは本来、山野に自生する植物ですが、仙台では早くから“根の白さと長さを活かす栽培技術”が発達し、「根まで食べるせり文化」 が受け継がれてきました。
特に仙台では冬になると「せり鍋」 が家庭料理として広く定着し、
その主役として「仙台せり」が欠かせない存在になっています。
● 生産者の想い
仙台せりは “根を育てる栽培” が命。
● 一つひとつの株を手植え
● 水量を一定に保つため田を細かく調整
● 収穫も根を折らないよう手作業で丁寧に引き抜く
生産者がよく語るのは、「根を美しく育てるのが仙台せりの誇り」ということ。
また、せりはとてもデリケートで、
水温・日照・水流のわずかな変化ですぐに品質が落ちるため、
生産者は毎日、朝晩に水の流れと温度をチェックしています。
市場に並んだときのあの凛とした白い根は、職人達の細やかな管理の賜物なのです。
● 旬と希少性
仙台せりの最盛期は冬。
特に12月〜1月は香りも食感もバランスがよく、最もおいしい時期。
ただし意外に知られていませんが、仙台せりも 収量はそこまで多くありません。
需要が増え続ける今、年末〜冬本番には品薄になることもしばしば。
「買えるうちに買う」
これが仙台せりの鉄則といえます。
● 味わい・食感の特徴
仙台せりの魅力は、とにかくバランスの良さ。
- 香り:すっきり、爽やかで上品
- 食感:シャキシャキ、根は甘みのある歯ごたえ
- クセ:少なく、子どもでも食べやすい
クセがないため鶏だし、比内地鶏スープ、寄せ鍋など、どんな鍋にも合います。
特に根のシャキッとした食感は唯一無二で、“根を味わうためのせり”ともいえる存在です。
第三章:三関せり——香りが濃い、食通を魅了する希少ブランド

● 三関せりが育つ秋田県湯沢市・三関地区
三関せりは、秋田県湯沢市の三関地区で栽培されるブランドせり。
地域は四季の寒暖差が大きく、冬は厳しい寒さが訪れる土地。
この気候こそが、三関せり最大の特徴である強い香りと深い味わいを生みます。
「とにかく香りが段違い」
「一度食べると他のせりに戻れない」
と評されるほどの強い個性を持ち、今では仙台せりと肩を並べる人気ブランドです。
● 希少性の高さは“全国でもトップクラス”
三関せりの最大のポイントは、圧倒的な希少性。
栽培される地域は限られ、農家の数も少ないため、
全国流通量は非常に少ないのです。
そのため、冬になると
- 高級料理店が先に買い付ける
- 一般向けはすぐ売り切れる
- 毎年「幻のせり」と話題になる
という状況が発生します。
もし見かけたら、迷わず買うべきと言われるほど入手困難な野菜です。
● 歴史(300年以上の伝統)

三関せりは秋田県湯沢市の三関地区で、江戸時代中期(約300年前)から栽培されてきた伝統野菜。もともとは薬草として扱われており、「風邪をひいたら三関のせりを食べると治る」と言われたほど、地元では滋養野菜として親しまれてきました。
地元農家では代々、“家の味噌汁には三関せりを入れる”という家庭も多く、完全に生活に根づいた野菜です。
● 生産者の想い
三関せりの農家はほとんどが小規模で、家族経営の農園が多く、量産ができません。
そのため生産者は
「多くは作れないけれど、最高の一本だけを届けたい」
という誇りで、一本一本の株を大切に育てています。
作業のほとんどは手作業で、特に除草が大変。
せりより生育が早い雑草を取り除くため、真夏も冬も毎日の管理が欠かせません。
三関せりは“見た目の美しさ”よりも香り・味・根の力強さを重視した“職人気質のせり”とも言えます。
● 味わいの特徴
三関せりは、白く長く伸びた根と野性味あふれる強い香りが魅力。
- 香り:濃い、力強い、立ち上がりが早い
- 苦味:心地よい苦味がアクセント
- 食感:茎はしっかり、葉は濃い味わい
- 風味:鍋全体を“せりの香り”で包むような存在感
仙台せりが“上品な王道”であるなら、三関せりは“個性派の最高峰”。
味のインパクトが非常に大きく、食通が好むタイプです。
第四章:仙台せり × 三関せり——2大ブランドの違いを徹底比較
ここで一度、2つのブランドの特徴を整理しておきましょう。
| 項目 | 仙台せり | 三関せり |
|---|---|---|
| 産地 | 宮城県(名取市・仙台周辺) | 秋田県湯沢市・三関地区 |
| 旬の時期 | 12月~1月が最盛期 | 11月下旬~2月(特に12月が極上) |
| 香り | 爽やかで上品・クセが少ない | 香りが濃い・野性味がある |
| 食感 | 根が甘くシャキシャキ | 茎が太めで味が濃い |
| 栽培方法 | 湧き水を使った水耕に近い栽培 | 冬の寒暖差を活かした伝統農法 |
| 希少性 | 比較的手に入りやすい | 収量が極めて少なく入手困難 |
| 鍋との相性 | 万人向けで鶏だしと相性抜群 | 香りが主役の個性派・食通向け |
第五章:せり鍋に使うならどっち?用途別おすすめ

● 初めてのせり鍋 → 仙台せり
理由は3つ:
- 香りが爽やかでクセが少ない
- 根の甘みと食感で万人受け
- 鶏だしとの相性が抜群
特にせり鍋初心者は、まず仙台せりから入ると間違いありません。
● 香りを堪能したい → 三関せり
とにかく香りの強さで選ぶなら三関せり。
鍋のふたを取った瞬間に広がる“濃い香り”は圧倒的です。
料理人が「特別な日に使いたい」と語るほど、香りが主役になります。
● 食べ比べで贅沢に → 両方買うのが最強
実はせり鍋は“ミックス”してもおいしい料理。
- 仙台せりの根の甘み
- 三関せりの香りと苦味
これが合わさると、驚くほどバランスが取れます。
SNS等でも「食べ比べ鍋」がトレンド化しており、贅沢な冬の楽しみ方として人気です。
第六章:ブランドせりを購入するときの注意点

せりは傷みやすい野菜のため、購入時の鮮度が非常に重要です。
とくに根を味わう仙台せり、香りが命の三関せりは、鮮度が落ちると魅力が半減します。
● 購入時のチェックポイント
- 根が白く濁っていないか
- 茎がピンとしているか
- 葉先が黒くなっていないか
- 土や汚れが多すぎないか
第七章:せり鍋の美味しい作り方——ブランドせりを最大限に活かす
せり鍋をつくる際に絶対守りたいのが、
● せりは最後に入れること。
香りが命なので、長時間煮るのはNG。
基本手順は以下の通り:
- 鶏肉とだしを煮て旨味のベースを作る(鶏モモ肉がベスト、本格的に作るなら合鴨肉で風味up)
- 具材を煮てスープを整える(ごぼう・豆腐・長ネギ・キノコ類)
- 食べる直前にせりの根→茎→葉の順で入れる(せりを切り分けるときに根・茎・葉に分けておくと良し。葉と茎は水につけ置き、根はよく洗って使用します。)
- 火が通ったらすぐ食べる
仙台せりは根のシャキシャキ感を、三関せりは香りを最大化できる調理法なので、どちらにもおすすめです。
第八章:希少な“冬の贅沢野菜”を味わうという体験

仙台せりも三関せりも、ただの野菜ではありません。
収量が限られ、地域の自然と農家の手間が凝縮された冬にしか楽しめない贅沢な味。
ブランドせりが全国区の人気を得た今でも、年間を通して大量に出回ることはなく、
「冬だけのご褒美」といえる特別な存在です。
せり鍋はもちろん、
おひたし、和え物、しゃぶしゃぶ、すき焼きにも相性が良いので、手に入る季節にはぜひ楽しんでいただきたい素材です。
まとめ
● 仙台せりと三関せり——どちらを選んでも、冬の鍋は必ずおいしくなる
仙台せりは上品で万人向け。
三関せりは香りが主役のプレミアム。
それぞれにしかない個性があり、どちらも冬の食卓を豊かにしてくれます。
もし迷ったら、
“仙台せりの根 × 三関せりの香り”
という贅沢な食べ比べを楽しむのもおすすめです。
入手困難になる時期も多いため、見つけたときが買い時。
冬の間しか味わえない、特別なせりの世界をぜひ楽しんでみてください♪
仙台せり・三関せりを購入する:(旬が短く希少なため、在庫がない場合があります)
参考文献
- 農林水産省「第149号:仙台せり」登録情報ページ。登録番号 149、宮城県名取市および仙台市太白区。【 農林水産省】
- 「清流と技術で育む伝統野菜『三関せり』」 ― 秋田県農林水産情報こまちチャンネル( e-komachi.jp)、2014年12月26日。【e-komachi.j】】
- 東北経済産業局「〖秋田県〗三関せり — 地域ブランド情報」サイト。三関せりの歴史、栽培、ブランド化について詳述。【tohoku.meti.go.jp】
- 農林水産省「三関せり」 — 達人レシピ紹介ページ。三関せりの特徴、根まで食べられる点、栽培地の自然条件など。【農林水産省】
- 「宮城の旬を味わう!伝統野菜&ブランドフルーツの美味しいレシピをご紹介」 — 宮城県公式「宮城旬鮮探訪」サイト。せり全般(冬せり/春せり)の特徴と食べ方。【宮城旬鮮探訪】
- 「〖セリ〗栽培の歴史は400年」 — 豊洲市場 の公式食材NEWS。仙台せりを例に、せりの歴史や旬の時期などが紹介されている。【ザ・豊洲市場〖公式〗 | 豊洲市場に関する様々な情報をご紹介します。】
- 「三関せり」商標登録情報 ― 独立行政法人 INPIT(工業所有権情報・研修館)。登録番号 5665640、指定地域、栽培・流通の定義など。【INPI】
注記・補足
「仙台せり」は 2024年3月に地理的表示保護 (GI) 登録された農産物で、これによって品質・産地が公式に保証されています。【農林水産省】
「三関せり」は伝統野菜で、江戸時代からの栽培の歴史を持ち、2000年代以降“地域ブランド化”が進められてきました。【e-komachi.jp+2tohoku.meti.go.j】


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