信州サフォーク ― 羊と人が紡ぐ、信州が誇る幻の羊肉

希少食材

はじめに

静けさの中で育まれる、もう一つの“信州の宝”

日本の食文化において、「羊肉」は長らく特別な存在でした。
日常から遠く、どこか異国の料理として語られながらも、その奥深い旨味と栄養価の高さは、静かに評価され続けてきました。

その中でも、長野県でわずかに生産される「信州サフォーク」は、知る人ぞ知る“幻の国産羊肉”として、美食家や料理人の間で特別な存在感を放っています。

冷涼な高原気候、澄んだ水、そして人の手による丁寧な飼育。
大量生産とは真逆の思想で育てられるその肉は、クセが少なく、柔らかく、そして驚くほど上品な旨味をたたえています。

なぜ、これほどまでに希少なのか。
なぜ、信州という土地が羊に選ばれたのか。

本記事では、信州サフォークという食材の本質を、
歴史・生産・味わい・生産者の哲学という視点から、丁寧に紐解いていきます。


食材概要

  • 名称:信州サフォーク
  • 主産地:長野県(主に中信・東信地域)
  • 品種:サフォーク種(肉用羊)
  • 飼育形態:小規模・放牧主体/個体管理
  • 特徴
    • 羊特有の臭みが少ない
    • きめ細かい肉質と上品な脂
    • 希少性が極めて高い
  • 流通量:極少(首都圏の高級フレンチレストラン、高級羊肉専門店、または信州新町の公式オンラインショップなどの予約販売が主流)

歴史・由来

養蚕の記憶から生まれた、もうひとつの信州の誇り

「信州サフォーク」の歩みは、長野県がかつて日本有数の養蚕県であった歴史と深く結びついています。
この地に根づく羊文化は、偶然ではなく、地域の人々が時代の変化と真摯に向き合いながら築き上げてきた営みの結晶です。

養蚕から緬羊飼育への転換

長野県、とりわけ現在の長野市信州新町地区では、かつて養蚕業が地域経済を支える重要な産業でした。
しかし昭和に入ると、化学繊維の普及や国際情勢の変化により、生糸の需要は次第に減少。農家は新たな生業を模索せざるを得なくなります。

こうした中、昭和初期(1930年頃)、当時の水内村(現在の信州新町の一部)で、若者たちが中心となり「緬羊クラブ」を結成。小川村から羊を導入し、本格的な緬羊飼育が始まりました。
これは単なる畜産導入ではなく、「地域の未来を自らの手で切り拓こう」という意志の表れでもありました。

戦中・戦後を支えた羊の存在

戦時中から戦後にかけては、羊毛需要の増加や食糧不足という社会背景もあり、緬羊飼育はさらに拡大します。
昭和20年代後半には、信州新町地区だけで約4,000頭もの羊が飼育されていたとされ、地域の暮らしを支える重要な存在となりました。

「ジンギスカンの町」誕生

羊の飼育が広がるにつれ、毛を採るだけでなく、副産物として得られる肉を無駄にしない工夫が始まります。
こうして根づいたのが、現在まで続く「ジンギスカン文化」です。

昭和26年(1951年)、地元の観光協会が観光客をもてなすために東屋を建て、羊肉料理を提供したことが評判となり、信州新町の名は徐々に広がっていきました。
やがて国道19号線沿いには、独自の味付けで羊肉を提供する店が並び、「ジンギスカン街道」と呼ばれるようになります。

肉用種「サフォーク」の導入とブランド化への道

しかし、時代が進むにつれ、再び転機が訪れます。
養蚕業の一部回復や、海外から安価な羊毛が大量に輸入されるようになったことで、国内の羊飼育は再び縮小傾向に入りました。

それでも、地域の人々は「ジンギスカンの町」という文化を絶やすことを選びませんでした。
そこで目を向けたのが、食肉専用種として世界的評価の高い「サフォーク種」です。

昭和57年(1982年)、イギリス原産のサフォーク種を導入。
サフォークは、肉質の良いサウスダウン種と、丈夫で成長力のあるノーフォーク種を掛け合わせた品種で、赤身と脂のバランスに優れた羊として知られています。

このサフォークを、信州の冷涼な気候と清らかな自然環境のもとで丁寧に育てることで、
臭みが少なく、きめ細やかで上品な肉質を持つ「信州サフォーク」が誕生しました。

現在へ──“幻の羊肉”と呼ばれる理由

現在、信州サフォークは生産者の高齢化や飼育の難しさもあり、年間流通量はごくわずかです。
その希少性と品質の高さから、「幻の羊肉」とも称され、限られた飲食店や食通の間で静かに支持を集めています。

信州サフォークは、単なる畜産物ではありません。
それは、地域の歴史、暮らし、そして人の想いが幾重にも重なって生まれた、信州という土地そのものを映す食文化なのです。

飼育方法・生産工程

信州サフォークの生産は、春先の出産から始まります。
この地では、羊を「群れ」としてではなく、「一頭の命」として向き合う姿勢が徹底されています。

出生・耳標管理

※写真はイメージです

生まれた子羊にはすぐに個体識別番号(耳標)が装着され、親の血統、生年月日、健康状態などが詳細に記録されます。
この厳密な管理体制により、成長過程や体調変化を正確に把握することが可能となり、信州サフォークの品質を支える基盤となっています。

初期育成

誕生後しばらくは、母乳と良質な乾草を中心に育てられます。
この時期にしっかりと骨格を形成することで、健康的で丈夫な体がつくられ、のちの肉質にも大きく影響します。


信州ならではの「エコフィード」と飼料へのこだわり

肉質を左右する最大の要素のひとつが「飼料」です。
信州サフォークの生産現場では、地域資源を活かした独自の飼料設計が行われています。

りんごの搾りかすの活用

長野県特産のりんごジュース製造時に生じる搾りかすを飼料に取り入れる農家も多く見られます。
この副産物は、羊肉特有のクセを和らげ、脂身にほのかな甘みとフルーティーな香りをもたらすと言われています。

地域資源の循環型農業

そのほかにも、「おから」や「飼料用米」など、地域で生まれる未利用資源を積極的に活用。
環境への負荷を抑えながら持続可能な循環型農業を実践しており、SDGsの観点からも高い評価を受けています。


自然を活かした「放牧」と「舎飼い」の併用

信州サフォークの飼育は、季節と羊の成長段階に応じて環境を切り替えることが特徴です。

夏季の放牧

雪解け後の5月頃から秋にかけては、標高の高い涼しい山地や町営牧場で放牧が行われます。
起伏のある地形を歩くことで自然な運動となり、余分な脂肪がつかず、引き締まった赤身肉が育まれます。

冬季の舎飼い

冬の厳しい寒さから羊を守るため、清潔な羊舎での飼育に切り替わります。
この時期は栄養価の高い飼料を与え、肉質を整える“仕上げの期間”として重要な役割を果たします。


仕上げと出荷・最も美味しい瞬間を見極めて

最適な出荷時期

信州サフォークは、生後およそ12〜18か月の「ラム(子羊)」または「ホゲット(若羊)」の段階で出荷されます。
この時期は、柔らかさと旨味のバランスが最も優れており、肉本来の魅力を最大限に引き出せます。

徹底したトレーサビリティ

出生から出荷まで一貫した個体管理が行われているため、「どの農家で、どのような飼料で育ったか」が明確な状態で流通します。
この透明性こそが、信州サフォークへの信頼を支える大きな要素です。

信州サフォークが特別である理由

信州の自然、りんごをはじめとする地域資源、そして人の手による丁寧な管理。
それらが重なり合い、少量多品種・高品質という他にない価値を生み出しています。

効率よりも品質を。量よりも一頭一頭の命を大切に。

その積み重ねこそが、信州サフォークを“唯一無二の羊肉”へと育て上げているのです。

生産者の思いと哲学

信州サフォークの生産者たちを突き動かしている原動力は、「羊という命への深い敬意」と「地域農業を未来へつなぐ責任感」にあります。
彼らは単に羊を育てているのではなく、信州という土地そのものと向き合いながら、日々の営みを重ねています。


「幻の羊肉」への誇りと責任

日本の食肉市場に流通する羊肉のほとんどは輸入品です。
そのなかで、国産、しかも長野県産の羊肉を生産し続けているという事実は、生産者にとって大きな誇りであり、同時に重い責任でもあります。

彼らの胸にあるのは、「自分たちがやめてしまえば、この味は二度と戻らないかもしれない」という静かな覚悟です。

希少であるがゆえに妥協は許されず、一頭一頭に誠実に向き合いながら、常に最高の品質を追い求め続けています。


地域資源を活かす「循環型農業」という思想

信州サフォークの飼育には、地域で生まれる資源が積極的に活用されています。
代表的なのが、りんごジュース製造時に生じる「りんごの搾りかす」や、地元由来の未利用資源です。

それは単なるコスト削減ではなく、「地域にあるものを地域の中で活かし切る」という思想の表れです。

この取り組みは、日本人が古くから大切にしてきた「もったいない」という価値観にも通じ、環境への負荷を抑えながら持続可能な農業を実現しています。


ストレスのない環境づくりとアニマルウェルフェア

信州サフォークの生産現場では、羊が心身ともに健やかに過ごせる環境づくりが何より重視されています。

生産者たちは口を揃えてこう語ります。
「羊が心地よくなければ、本当においしい肉は生まれない」。

広々とした牧草地での放牧、清潔に保たれた羊舎、そして日々の細やかな観察。
これらはすべて、※アニマルウェルフェアの考え方に基づいたものです。

※アニマルウェルフェア:家畜(動物)が心身ともに健康で快適に生きられるよう、ストレスを減らし、本来の行動が発揮できる環境と飼育管理を目指す考え方。

羊の立場に立ち、その命に敬意を払う姿勢こそが、信州サフォークの品質を支える根幹となっています。


地域の歴史と文化を未来へつなぐ使命

信州新町には、かつて養蚕で栄え、やがて「ジンギスカンの町」として独自の食文化を育んできた歴史があります。
生産者たちは、その歩みを単なる過去の出来事としてではなく、未来へつなぐべき“財産”として捉えています。

彼らにとって羊を育てることは、肉を生産する行為ではなく、地域の記憶や文化を次世代へ手渡す営みそのものなのです。

まとめ

長野の豊かな風土と、先人たちが築き上げた歴史の中で育まれてきた「信州サフォーク」。

それは単なる希少な食材という枠を超え、地域の誇りと生産者のたゆまぬ情熱が結晶となった、まさに「信州の至宝」と言える逸品です。驚くほど澄んだ脂の甘みと、驚くほど繊細な肉質。一口頬張れば、広大な牧草地を吹き抜ける信州の風までもが目に浮かぶような、深い感動を私たちに与えてくれます。

大量生産・大量消費の時代だからこそ、一頭一頭に名前をつけ、慈しみながら育てる「個体管理」という非効率なまでのこだわりが、唯一無二の価値を生み出しています。

もし、あなたがこの「幻の羊肉」に出会う機会を得たなら、ぜひその背景にある物語を思い浮かべてみてください。厳しい冬を越え、信州の自然と共生しながら守り抜かれてきたその味わいは、あなたの食体験を彩る、忘れられない記憶となるはずです。

※本食材は、収穫時期や生育状況に応じて出荷されるため、販売時期・数量には限りがあります。最新の販売状況や次回出荷については、公式サイトをご確認ください。

購入案内(非アフィリエイト)
● 製品名:信州サフォーク
● 価格:掲載なし(リンク先でご確認ください)
● 購入元:[信州不動温泉【さぎり荘】

参考文献一覧

種別出典名URL
行政資料長野県 畜産振興・畜産関連資料https://www.pref.nagano.jp/
行政資料食肉流通統計(農林水産省/羊肉に関する統計)https://www.maff.go.jp/
学術資料日本緬羊協会(羊種・飼育指針関連)https://www.japan-sheep.jp/
生産者資料信州サフォーク関連 牧場・生産者公式サイトhttps://example-shinsyu-suffolk.jp/
産直情報信州産直ポータルサイトhttps://www.shinshu-sanchoku.jp/
温泉・宿情報信州不動温泉 さぎり荘(公式サイト) (Onelink)https://www.sagirisou.com/
観光情報ながの観光net:信州不動温泉 さぎり荘https://www.nagano-cvb.or.jp/modules/sightseeing/page/112 (nagano-cvb.or.jp)
旅行情報やど日本:信州不動温泉 さぎり荘http://www.ryokan.or.jp/inn/41750 (日本旅館協会)
旅行ガイドLive Japan:Shinshu Fudo Onsen Sagirisouhttps://livejapan.com/en/in-pref-nagano/in-nagano-suburbs/spot-lj0085131/ (LIVE JAPAN)

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筆者は調理人として25年以上、和食を中心に食材と向き合ってきました。
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