はじめに

静かな土地が育んだ、“幻の桃”
桃の名産地として知られる福島県。
その中でも、ひっそりと語り継がれる存在があります。
それが、古山果樹園のプライベートブランド「とろもも」です。
この桃は、決して派手に語られることはありません。
しかし一度口にした人の記憶には、深く、静かに残ります。
果肉は舌の上でほどけるようにやわらかく、甘みは輪郭を持って広がり、やがて余韻となって消えていきます。
その味わいは、一般的な“甘い桃”という言葉では表しきれません。
とろももは、収穫量が極めて限られています。
完熟の瞬間を逃さず、樹の上で仕上げるという栽培方法ゆえ、市場に流通することはほとんどありません。
その希少性と完成度の高さから、過去には“果実の価値”そのものを考えさせられるような評価を受けたこともあります。
それでも古山果樹園は、声高に語ることはありません。
数字や肩書きよりも、「本当においしいと思える瞬間」を大切にしてきました。
とろももは、ただ甘いだけの桃ではありません。
長い時間をかけて育まれた技術と覚悟、そして静かな誇りが、ひと玉の中に込められているのです。
この先では、そんな“とろもも”がどのように生まれ、なぜ特別な存在となったのかを、ひとつひとつ紐解いていきます。
食材概要
- 名称:とろもも(※これは主に古山果樹園による商品名・ブランド名です。一般的な流通品種名ではありません)
- 産地:福島県古山果樹園
- 分類:(完熟型・高糖度)※各種栽培される品種の中での最高糖度の桃
- 収穫時期:7月下旬〜8月中旬(極めて短期間)
- 特徴:完熟収穫のため日持ちが短い
- 流通量:極少量(主に産地直送・予約販売中心)
歴史・由来

古山果樹園、挑戦と再生の軌跡
「とろもも」は、福島県福島市にある古山果樹園の五代目園主・古山浩司(ふるやま こうじ)氏が生み出した、超高糖度桃のプレミアムブランドです。
その背景には、130年以上続く果樹園の歴史と、震災を乗り越えようとする強い意志、そして“世界一の桃”を目指す飽くなき探究心がありました。
古山果樹園の歴史 ― 伝統と革新のはじまり
古山果樹園は、明治時代に創業した、130年以上の歴史を持つ果樹農家です。
代々この地で果樹栽培を続け、地域とともに歩んできました。
大きな転機が訪れたのは2011年。現在の園主である古山浩司氏が家業を継いだ年でした。
古山氏はもともと大手企業で精密機器エンジニアとして活躍しており、農業とは異なる分野でキャリアを築いていました。しかし就農直後、東日本大震災と原発事故が発生します。
「福島産」というだけで、どれほど品質が高くても敬遠されてしまう現実。その厳しさは、想像をはるかに超えるものでした。
そんな中、古山氏はこう考えます。
「誰にも文句を言わせない品質をつくればいい。
世界一だと言えるものを生み出せば、必ず道は開ける。」
エンジニア時代に培ったデータ分析力と論理的思考を農業に持ち込み、土壌分析、施肥設計、樹勢管理などを一から見直しました。
こうして、“感覚”ではなく“再現性”を重視した独自の栽培体系が築かれていったのです。
「とろもも」の誕生と名前の由来
「とろもも」という名前は、古山氏が追い求めた“究極の完熟”をそのまま表現しています。
一般的な桃は、流通や日持ちを考慮し、やや硬いうちに収穫されます。
しかし古山氏は、糖度を極限まで高めるため、樹上で限界まで熟させる「完熟収穫」にこだわりました。
その結果、果肉は驚くほどやわらかく、口に含むととろけるような食感に。この特徴から、「とろもも」と名付けられました。
また、「とろもも」は特定の品種名ではありません。あかつき、まどかなど複数の品種の中から、光センサーによる糖度測定で15.5度以上という極めて厳しい基準をクリアした果実だけが、この名を名乗ることを許されます。
つまり「とろもも」とは、古山果樹園が認めた“最高到達点”の証なのです。
世界記録への挑戦と、進化し続ける桃づくり
古山氏は、土壌データの分析や独自の肥料設計など、科学的なアプローチを積み重ねながら、さらなる糖度の向上を追求していきました。
- 2015年頃:糖度15.5度以上をブランド基準として確立
- 2020年:糖度40.1度を記録し、当時のギネス世界記録(22.2度)を大きく更新
この数値は、果物の常識を覆すものであり、「世界一甘い桃」として国内外から注目を集めることになります。
現在では、糖度によって細かくランク分けが行われ、特に優れた個体は一玉数百万円という価格で取引されることもあります。
それは決して話題性のためではなく、積み重ねてきた技術と哲学が正当に評価された結果です。
未来へつなぐ、ひと玉の価値
とろももは、単なる高級果実ではありません。それは、困難な時代においても妥協せず、「本物とは何か」を問い続けた一人の生産者の答えです。
自然と向き合い、データと感覚を融合させ、最高の一玉を追い求める。その姿勢は、今も古山果樹園の畑に息づいています。
とろももは、味わうことで初めて伝わる“物語を持つ果実”。
その一口には、福島の大地と、未来への希望が静かに込められているのです。
栽培方法・生産工程
とろももの特異な甘さと食感は、偶然の産物ではありません。
そこには、古山果樹園が長年にわたり積み重ねてきた、科学的かつ緻密な栽培技術があります。
伝統的な桃づくりを土台にしながら、独自の工夫を重ねることで、他にはない品質が生み出されています。
ステビア農法による高糖度化

とろもも栽培の大きな特徴のひとつが、「ステビア農法」です。
ハーブの一種であるステビアを煮出した濃縮液を、肥料や葉面散布として活用しています。
ステビアには抗酸化作用があり、土壌中の微生物環境を活性化させる働きがあります。
これにより樹が健やかに育ち、養分の吸収効率が高まることで、桃本来の甘さを限界まで引き出すことが可能になります。
単に糖度を上げるのではなく、樹の生命力そのものを高める――
この考え方が、とろももの味わいの土台となっています。
数値で管理する、精密な土壌・水分コントロール
古山果樹園では、経験や勘だけに頼らず、数値による管理を徹底しています。
エンジニア出身である古山氏ならではのアプローチです。
土づくりでは、堆肥や肥料の配合を細かく調整し、桃が効率よく養分を吸収できる環境を整えています。
さらに重要なのが水分管理です。
果実の糖度を高めるため、あえて水を与えすぎない「水分ストレス」をコントロールします。
ただし、過度なストレスは樹を弱らせてしまうため、天候や樹勢を見極めながら、きわめて繊細に調整されます。
この精密な管理が、安定した高糖度を支えています。
樹上完熟が生む、唯一無二の食感

一般的な桃は、輸送時の傷みを防ぐため、まだ硬さの残る状態で収穫されます。
一方、とろももは樹の上で完熟する瞬間まで待つという選択をします。
完熟を迎えた果実は、果肉がやわらかくなり、香りが一気に立ち上がります。
この“待つ”という工程こそが、「とろけるような食感」と奥行きのある甘さを生み出します。
当然ながら、落果や傷みのリスクは高まります。
それでも品質を最優先する姿勢が、とろももらしさを形づくっています。
1玉ずつ行われる、徹底した選別工程
収穫後、すべての桃は光センサー(非破壊糖度計)によって測定されます。
この工程で、内部の糖度が一玉ずつ数値化されます。
「とろもも」として認められるのは、糖度15.5度以上という厳しい基準をクリアしたものだけです。
さらに、糖度20度以上、30度以上といったように、細かなランク分けが行われます。
この工程によって、品質は完全に可視化され、曖昧さのない評価が可能になります。
一玉ごとに価値が決まるため、まさに“果実の個性を尊重する選別”といえるでしょう。
年間を通した生産の流れ
- 冬季:剪定・土壌改良
- 春〜初夏:摘蕾・摘果(栄養を一果に集中させる)
- 夏:ステビア液肥の施用、水分量の精密管理
- 収穫期:樹上完熟を待ち、最適なタイミングで収穫
- 選別:光センサーで糖度を測定し、合格果のみをブランド化
こうした工程を経ることで、はじめて「とろもも」は完成します。
科学と自然が生んだ、“世界水準”の一玉
とろももは、偶然の産物ではありません。
伝統的な果樹栽培に、科学的な数値管理と技術を融合させることで生まれた、極めて完成度の高い果実です。
自然と対話しながら、数字とも向き合う。
その積み重ねが、「世界記録級」と評される甘さと、唯一無二の食体験を生み出しています。
生産者の思いと哲学
震災復興と「胃袋をつかむ」覚悟
古山氏の挑戦は、2011年の東日本大震災から始まりました。
原発事故の影響により、福島産というだけで敬遠され、桃は「1個1円でも売れない」と言われるほどの状況に追い込まれます。
その現実を前に、古山氏はこう考えました。
「安心・安全は言葉では伝わらない。
でも“美味しさ”なら、誰の心も動かせる。」
風評に抗うために必要なのは、説明ではなく体験。
「一口食べれば、必ずもう一度食べたくなる」―そんな圧倒的な美味しさで、人の心を動かすことを目指しました。
古山氏はよく「胃袋をつかめば、人の心は動く」と語ります。
理屈ではなく、味覚で信頼を取り戻す。それこそが、福島の桃が再び食卓に戻るための道だと信じたのです。
さらにその視線は、日本国内だけにとどまりません。
福島産食品の輸入を制限する国々に対しても、
「世界一甘い果物が、福島にある」
という事実をもって、評価を覆したいという強い思いを抱いています。
栽培・経営哲学
エンジニア視点で“農業を可視化する”
古山氏の農業は、経験や勘に頼るものではありません。
精密機器エンジニアとして培った思考をそのまま農業に持ち込み、「数値による管理」を徹底しています。
感覚ではなく、数値で語る
土壌の状態、養分の吸収効率、糖度の推移などを定量的に捉え、再現性のある栽培を実現しています。
桃の価値は「甘さ」にある
酸味とのバランスが重要とされる果物もありますが、古山氏は桃については明確です。
「桃は、シンプルに甘ければ甘いほど美味しい」。その思想のもと、糖度を極限まで高めることに集中しています。
● 生産から販売まで一貫管理
JAなどを介さず、自ら販売まで担うことで品質責任を明確化。
どの桃が、どの基準で、どこへ届けられるのか――すべてを自らの判断で決めています。
この一貫体制が、「とろもも」というブランドの信頼性を支えています。
「1玉300万円」に込められた意味
糖度40度を超える個体には、1玉300万円という価格がつけられたこともあります。
この数字は、単なる話題づくりではありません。
農業の価値を引き上げるために
「農業は儲からない」「若者が目指す仕事ではない」そんな固定観念を打ち破るため、農産物そのものの価値を引き上げる必要があると考えました。
桃を“消耗品”ではなく、価値ある作品として提示する。それが、次世代の農業を守ることにつながると信じています。
さらなる挑戦への投資
高価格はゴールではなく、研究と挑戦を続けるための手段でもあります。
より甘く、より美しい桃を生み出すための設備投資や試験栽培へと還元されています。
「とろもも」が示す未来
とろももは、単なる「甘い桃」ではありません。科学と情熱、そして復興への強い意志が結晶化した存在です。
風評という逆境に立ち向かい、世界に挑む。その姿は、福島の農業が持つ可能性そのものを映し出しています。
とろももは今日も、“果物の価値”そのものを書き換え続けています。
まとめ

「とろもも」は、ただ甘い桃ではありません。
それは、福島という土地が歩んできた時間、逆境に向き合ってきた人の覚悟、そして“本当に美味しいものを届けたい”という誠実な想いが結晶した、ひとつの物語です。
震災という未曾有の出来事によって、福島の農業は大きな試練に直面しました。
その中で古山浩司氏は、「安心・安全を語るだけではなく、圧倒的な美味しさで信頼を取り戻す」という信念を掲げ、誰も到達したことのない甘さを追い求めました。
感覚に頼らず、数値で語る。偶然に任せず、科学と経験を積み重ねる。
その姿勢は、農業という営みを“職人技”から“未来産業”へと押し上げています。
樹上で完熟を迎えた果実、徹底した糖度管理、そして一玉一玉に向き合う覚悟。
そこから生まれる「とろもも」は、口にした瞬間に驚きをもたらし、やがて記憶に残る体験へと変わります。
限られた数しか世に出ないその希少性は、単なる演出ではなく、品質への妥協なき姿勢そのものです。
かつて語られた「福島の桃は世界一になれる」という言葉。
それは決して誇張ではなく、今なお更新され続ける挑戦の途中にあります。
「とろもも」は、福島の未来を甘く照らす希望であり、農業の可能性を静かに、しかし力強く証明し続けています。
この一玉に込められているのは、味わいだけではありません。
土地への敬意、人への信頼、そして“次の世代へつなぐ覚悟”――。
それらすべてを感じながら味わうとき、「とろもも」は、きっと忘れられない存在になるはずです。
※本食材は、収穫時期や生育状況に応じて出荷されるため、販売時期・数量には限りがあります。最新の販売状況や次回出荷については、公式サイトをご確認ください。
購入案内(公式/非アフィリエイト)
● 製品名:とろもも
● 価格:掲載なし(リンク先でご確認ください)
● 購入元(公式):[古山果樹園オンラインストア]
参考文献一覧
| 種別 | 出典名 | URL |
|---|---|---|
| 生産者公式 | 古山果樹園 公式サイト | https://furuyama-kajuen.com/ |
| 行政資料 | 福島県 農林水産部 | https://www.pref.fukushima.lg.jp/ |
| 行政・観光 | 福島県観光情報サイト | https://www.tif.ne.jp/ |
| 市場・流通 | 福島県青果物市場関連資料 | https://www.fukushima-shijou.jp/ |
| 農業技術 | 農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構) | https://www.naro.go.jp/ |
| 報道・特集 | 各種新聞・農業専門メディア(桃・果樹特集記事) | 各媒体公式サイト |



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