はじめに:日本に“山塩”が存在する理由

海に囲まれた日本で「山から塩が採れる」と聞くと、多くの人は驚きます。しかし、縄文時代から日本各地には“塩泉”と呼ばれる塩分を含む温泉や湧水が点在しており、それを煮詰めて貴重な塩を作っていました。海から遠い内陸部では特に貴重で、地域の歴史と文化を支える重要な資源でした。
本記事では、現在も手作業で塩作りを続ける
・会津山塩(福島県)
・大鹿村の山塩(長野県)
・松之山塩(新潟県)
の三種類を取り上げ、その歴史、製造方法、生産者の思いを深掘りしていきます。
会津山塩(福島県)

● 歴史:塩が禁じられた時代を越えて残った“幻の塩”
会津山塩の起源は約1,200年以上前、平安時代に遡ると言われています。
グリーンタフと呼ばれる地層に閉じ込められた太古の海水が、高温の地下水に溶け出して源泉になりました。塩分を含む温泉を煮詰めて塩を作っていたものの、近代になると政府は塩の専売制を開始。自由に塩を作ることが禁じられ、会津でも山塩作りは途絶えてしまいました。
しかし、1980年代後半に「もう一度会津の山塩を復活させたい」という声が地域で上がりました。地元住民や研究者、職人が協力し、古文書を読み解きながら再現。試行錯誤の末、平成に入り会津山塩は完全復活を果たします。
“失われた技術”を現代に蘇らせた、まさに奇跡の塩です。
● 製造方法
会津山塩の原料は、大塩裏磐梯温泉から湧出する塩泉を原料としています。
塩分濃度は約1%
● 工程
- 温泉水を汲み上げる
- 薪窯で4~5日かけて煮込み、塩分濃度を20%程度まで上げる
- 高濃度温泉水をさらに煮詰め、結晶化した生塩を網で丁寧にすくいあげる
- 丸1日かけ、余分な水分を自然乾燥させる
- 不純物を目視で丁寧に取り除く
火加減を間違えると味が大きく変わるため、知識と経験が必要。結晶も温泉の成分で変化し、自然と向き合う繊細な作業が続きます。
● 生産者の想い
会津山塩の職人は「量産しない」「自然と向き合う」を徹底しています。
● 温泉の成分が季節で変わり、毎回塩の仕上がりが違う
● 大量生産できず、1日で作れる塩はわずか
● 専売制時代に失われた技術を再構築した苦労
「自然の味そのままを届けたい」
この信念のもと、手間を惜しまない塩作りを続けています。
100ℓの温泉から800~1000g程しか作られない希少な山塩。
白色で味はまろやか。旨味が強く、塩辛さが角立たないのが特徴です。
大鹿村の山塩(長野県)

● 歴史:日本で最も古い山塩のひとつ
大鹿村の山塩は、古くは奈良時代から作られていたという記録があります。
諸説ありますが2万年の間、巨大プレートによって大鹿村まで運ばれた海水が湧出しているのではないか。という説が有力になっています。
山深い村は海から遠く、塩は村の生命線。
塩泉を煮詰めて塩を得るこの技術は、村の暮らしを支えてきました。
しかし、ここも明治以降の塩専売制によって生産が中止。村の伝統は途絶えかけましたが、「大鹿村の文化を残したい」という住民の熱意によって、昭和末期に復活します。
● 製造方法
大鹿村の塩の源は、鹿塩地区で湧出する塩泉を原料としています。
塩分濃度は4%とほぼ海水と同じ。
● 工程
- 地下11メートルから温泉をくみ上げる
- 薪を炊き、大鍋で約1日半かけてゆっくり煮詰める
- 結晶が現れたら金網ですくい上げ、天日干しで仕上げる
- 粒をほぐして袋詰め
手作業が中心で、いわば“生き物”のような塩作り。
100ℓの温泉から約3㎏ほど作られます。
塩の色が雪のように真っ白になることが多く、ミネラルが多く含まれるため味わいは深く、ほんの少し甘みを感じることもあります。
● 生産者の想い
大鹿村は冬が長く、山間部のため製造が安定しません。
● 雪で道が通れないと原料を運べない
● 湧水の成分が季節で変わる
● 1回の仕込みで得られる塩の量が非常に少ない(数百g)
● 塩専売制時代の資料が少なく復元が大変だった
「村の文化、歴史、伝統を守りたい」
そんな思いで、村全体で塩作りが受け継がれています。
松之山塩(新潟県)

● 歴史:“化石海水”から生まれた塩
松之山塩は、海水ではなく約1,200万年前の化石海水から作られます。もともと海だった松之山は1,200万年前の地殻変動によって山ができ、海水が閉じ込められたといわれています。
松之山は世界的にも珍しい「化石海水温泉」を持つ地域で、その温泉水は海水の約7倍の塩分を含みます。
古くからこの湯を利用して塩を作っていたと言われますが、近代になると製塩は一度途絶え、2000年代に入り地域活性化の一環として復活しました。
● 製造方法
松之山塩の源は、松之山温泉の化石海水を原料としています。
塩分濃度は1.3%。
● 工程
- 化石海水温泉の湯を採取
- 大型の薪釜で10時間煮詰め、ゆっくり結晶化させる
- 仕上げに焚き火の熱でゆっくり乾燥
高濃度のため結晶化の具合や温泉の成分が変わりやすく、調整に高い技術が必要です。
100ℓの化石海水を12時間煮詰めて出来るのは、わずか1.3㎏
味は塩味が強い中にも旨味があり、やわらかい後味が特徴。
● 生産者の想い
松之山塩を作る人々は、地域の文化を守ることを使命として活動しています。
● 化石海水は濃度が高く、扱いが難しい
● 夏と冬で塩の仕上がりが大きく変化
● 温泉水は“生き物”で、日によって成分が違う
● 高濃度ゆえに結晶化の調整が難しく、技術が必要
「地域資源を未来に残し、松之山の価値を知ってほしい」
その思いで、職人と地域住民が力を合わせています。
● 各産地で提供されている名物料理
● 会津山塩の名物料理

- 山塩ラーメン(会津・喜多方の名店で提供)
- 山塩ジェラート(まろやかで甘じょっぱい)
- 山塩チョコレート山塩プリン
→乳製品との相性が良いと地元で定評。
● 大鹿村山塩の名物料理

- 山塩羊羹
- 山塩天ぷら塩(里山料理に使用)
- 山塩鍋
→素朴な山里の料理に溶け込む“優しい塩味”
● 松之山塩の名物料理

- 松之山温泉旅館の 山塩プリン(人気)
- 山塩おにぎり
- 山塩ソフト
- 松之山塩ラーメン(十日町エリア)
→ 化石海水由来の塩のため、味が濃くスイーツに映える
山塩を使ったおすすめレシピ

① 会津山塩 × 山塩ラーメン
会津では実際に「山塩ラーメン」が人気メニュー。
家庭でも近い味を再現できるレシピを紹介します。
● 材料(2人前)
- スープ … 700ml(鶏ガラ・豚ガラ・昆布・帆立の貝柱を沸騰させずじっくり煮出す)
- 会津山塩 … 適量
- 中華麺 … 2玉
- トッピング:チャーシュー、メンマ、ねぎ、味玉等
● 作り方
- 煮だしたスープを温める
- 会津山塩を少しずつ溶かし、味を調整
- 茹でた麺にスープを注ぐ
- トッピングを盛る
● ポイント
会津山塩は「塩辛さより旨味が前に出る」ため、スープに溶かすと味の底に丸みが生まれます。
② 大鹿村の山塩 × 山塩おにぎり

大鹿村では「最も素材の甘さを引き出す」と言われます。
● 材料
- 炊きたてご飯 … 適量
- 大鹿村山塩 … 少々
● 作り方
- 温かいご飯にほんの少量の山塩を振る
- 軽く握る
● ポイント
大鹿村の山塩は 甘さを感じる ほど丸みのある塩。
白米だけで驚くほど旨いと評判です。
③ 松之山塩 × ローストビーフ

松之山塩はしっかりした塩味があるため、肉料理と相性抜群。
● ローストビーフの松之山塩添え
作り方概要
- 牛もも肉に黒胡椒のみで下味
- 真空パック→肉をジップロックに入れて真空にする(鍋に水をはり、ジップロックの口を開けたまま口のジップのところまで水に沈める。ジップロックの口を閉め、空気が入っていなければOK。)
- 低温調理→真空にした肉を鍋に入れ、湯温55℃で3時間じっくり湯煎する。
- 湯煎した肉にフライパンで焼き色をつける
- 切り分け、食べる直前に松之山塩をパラリ
● ポイント
力強い塩味が肉の旨味を最大限引き出す。
まとめ

● 山塩は“土地の味”そのもの
会津、大鹿村、松之山。
この3つの塩は似ているようで、歴史も成分も味わいも全く異なり、まさに土地そのものの味と言えます。
● 伝統の復活に挑んだ会津
● 村の文化を守り続ける大鹿村
● 化石海水という奇跡の資源を活かす松之山
海塩には出せない深い旨味、自然と向き合う手作業の価値。
“山塩”は単なる調味料ではなく、地域のストーリーそのものです。
皆様がこの3つの山塩の魅力を感じ、実際に料理で試してみるきっかけになれば幸いです。
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● 製品名:会津山塩
● 価格:掲載なし(リンク先でご確認ください)
● 購入元(公式):[会津山塩企業組]
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● 製品名:大鹿村山塩
● 価格:掲載なし
● 購入元:[現地販売のみ。村内の「塩の里」直売所、または旅館「山塩館」の館内で購入できます]
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● 製品名:松之山塩
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● 購入元(公式):[塩之屋]
注意事項:最新の販売情報・発送条件は必ず購入元のページでご確認ください。
参考文献
| 出典名/ページ名など | 内容の概要 | メモ |
|---|---|---|
| 会津山塩企業組合 公式サイト | 「山塩とは」説明、会津山塩の源泉・製法、成分比較(温泉水 vs 海水)など | 会津山塩について最も一次的・正確な情報源 (aizu-yamajio.com) |
| 「100%手づくりの自然塩『会津山塩』」 (福島県のサイト) | 会津山塩の製造工程、手作りの特徴、塩の味わいなどを紹介 | 会津山塩の特徴とコンセプトがわかりやすくまとまっている (do-fukushima.or.jp) |
| 「雪深い会津の地で生まれる希少な温泉塩『会津山塩』」 (イッピンの記事) | 会津山塩の歴史、復活の経緯、食材との相性、利用例など | 塩の食味・利用シーンの紹介として有用 (ippin(イッピン) – あの人の「美味しい」に出会う) |
| 「食塩泉を煮詰めて作る山の〈塩〉」 (記事) | 山塩の製造方法、手作りであること、味の特徴などを説明 | “温泉 → 山塩”的な流れの解説に使いやすい (CREA) |
| まつのやま塩倉 紹介記事「1200万年前の化石海水温泉から塩を作る──まつのやま塩倉の試み」 | 松之山温泉 の化石海水を使った塩づくりの歴史、開発ストーリー、製法、製塩所の様子 | 松之山塩に関する具体的かつ最近の情報源 (matsunoyama-onsen.com) |
| FNN プライムオンライン記事「1200万年前の海水から『塩作り』…日本三大薬湯・松之山温泉からできる“地域の新しい宝”」 | 松之山塩の地域的価値、産地での取り組み、「見せる塩作り」の試み | 塩をめぐる地域振興の文脈も把握できる (FNNプライムオンライン) |



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